● 家畜の管理と草地改良の取り組み
当牧場の管理の基本は夏山冬里方式であり、繁殖管理の省力低コスト化と繁殖成績の向上を目指している。
放牧期間は5月〜10月の半年間で、黒毛和種の妊娠牛を放牧している。看視は各組合員間で調整し基本的に毎日行うこととしている。分娩前には各組合員の牛舎に戻し分娩させているが、放牧に慣れた牛で気象条件が安定している時は牧場で分娩も実施している。牧場で生まれた子牛は下痢などの病気の発生も無く、運動量も多いため健康に育つが、分娩させる場合は事故が生じないよう看視を十分に行うなど注意を払っている。
草地管理と個別経営との労働競合を回避するため、組合員の分担を調整し、より効率的な牧野管理と民主的な牧野組合運営を行ってきた。
当牧場は標高400メートル以上の山中にあり気温が低く土壌も礫が多い。また、道路の便が悪く急斜面が多いため機械による造成が困難である。このため、オーチャードやトールフェスク等の永年牧草を播種しているが定着が悪く、ワラビが優先してくる状態であった。このため半永続的で省力的な草種として、平成12年度からシバを導入し、毎年野シバやセンチピートのポット苗の移植等により徐々に草地を改良してきている。
また、当組合に対しては、町の熱心な支援体制があり、県の行政や試験研究の技術者が畜産農家とともに現場に合った草地改良や家畜管理方法の実証がなされている。
草地管理に関しては、優良牧草の種子の播種試験を行い城前牧場の土壌・気候条件に合った草種を選定するとともに実証試験を実施し、シードペレットや、シバ草地の定着拡大などにより、牧養力の向上につとめてきた。更に、定期的なワラビ等の雑草駆除を行い、草地の維持更新を行っている。これにより、放牧頭数は当初の16頭から現在23頭に増加してきている。
また、県家畜保健衛生所の指導を受け、ダニの駆除や0-157の検査等を実施し、モデル的な放牧衛生管理プログラムを実施している。
● 家畜改良への取組み
県が家畜改良事業団の種雄牛の中から選定した推奨牛を積極的に利用し、肉質改善を目標に種付けし、優良な素牛生産に努めてきた。また、子牛の育成技術についても組合員で情報交換や研修会を頻繁に行うなど技術の向上に努め、地域はもとより県内肥育農家への県内産優良肥育素牛の供給に大きな役割を果たしている。更に、当牧場の組合員から生産された子牛は、昨年実施された県の共進会で最優秀賞を受賞するなど、近年各共進会等で常に上位の成績を収めるようになり、県内では高い評価を受けている。
● 町有林の低コスト管理
城前牧場は、本来町有の杉林の一部を切り開いて設置されたもので、現在でもその8割以上が林地である。人力による杉林の下草刈りにかえて、放牧牛を利用した町有林の管理は非常に大きな効果をあげ、未利用資源を活用した低コスト畜産のモデルとしても、県内では高く評価されている。
● イベント等への参加と地域畜産物のPR
当管理組合は、町、JAが開催する地域イベント等へも積極的に参加し、また、立山牛はもとより地元畜産物の試食等を実施し、地元農畜産物の消費者へのPRならびに消費拡大にも努めてきた。
● 堆肥の還元による地力増強
肉用牛農家から生産される堆肥は、稲作農家や蔬菜農家に利用されるばかりではなく、地元の営農組合を通じて40haの水田に散布し、その産米は特別栽培米として販売するなど耕畜連携による良質安全な農産物の生産の一翼をになっている。
● 耕作放棄田等での放牧と景観保全
近年、立山町では、中山間地域を中心に耕種農家の高齢化や害獣の発生等により休耕田が増加し、長年の不作付け(10年間放置の圃場もあり)により、カヤなどが優占するとともに低木が入り込むなど、荒廃が進行し、優良農地の維持、農村の景観保全から問題になっていた。
このような中で、昨年(平成14年)畜産の省力低コスト化の観点からも未利用ほ場に生長するカヤなどを草資源として有効に活用するための手法として、耕作放棄地への放牧について、組合員と地域住民、地権者との話し合いが持たれた。当初、県内では他に水田での放牧事例が無く、地元の不安が大きかったため、他県の事例や放牧方法等を示し説得を行ない、小規模での試験的な取り組みとして実施することとなった。放牧地には、不耕作地約1haのほ場周囲に牧柵(有刺鉄線と電気牧柵の二重張り)、給餌・給水施設を設置した。
放牧牛には、城前牧場で放牧経験のある妊娠中の繁殖和牛で、事前にピロプラズマやO157等の衛生検査を行い健康状態が良好であることを確認した3頭を放牧し、日常、組合員が給水施設の衛生管理、牛の健康状況や脱柵の防止等に注意して監視に努めた。試験放牧の結果、牛は放牧後電気牧柵にすぐ馴れ、当初心配した脱柵も無く、自生のカヤや下草がほぼ食べ尽くされ、フスマ等の補助飼料の給与はほとんど必要がなく、踏圧により株が小さくなるなど景観の改善効果も大きかった。なお、臭気、害虫等による畜産環境汚染の問題も発生しなかった。また、副次的な効果として、放牧時は周辺のほ場に野猿の姿が見えなくなったことなど、獣害防止対策としての効果もみられた。
一方、問題点としては有刺鉄線の設置に労力を要したこと、放牧時期の遅れから、硬化したカヤの茎部の残食や、蹄圧により畦畔の一部が崩壊したことなどがみられたが、耕種農家の感触は概ね良好であり、理解が得られた。
今回は、試験的な実施であり脱柵防止のため有刺鉄線と電気牧柵(三段)の二重張りとしたが、通常は電気牧柵だけで放牧可能と考えられ、1haの面積であれば柵の設置に2〜3人で約半日、施設費は30〜40万程度と、労力及び経費面からも、十分普及可能な技術であることが確認された。
今年度は、5月中旬から、同地区で昨年同様放牧を行っており、更に不作地約3haに拡大を予定している。関係者は、他県の事例から3〜4年間放牧すれば雑草はほとんど消滅し、当該地が農地として再活用できるようになると期待されている
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