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肉用牛
肥育
経営
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大規模稲作との複合を目指す肉用牛経営
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村田 信雄
秋美
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1.地域の概況
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1 立地条件
富山市は富山県の中央に位置し、北部は富山湾に面している。地形的には北アルプス山系に源を発する常願
寺川、神通川に挟まれた扇状地形となっており、市全域にわたり平野部が広がっている。また、西部は飛騨高
原の丘陵山地に連なる呉羽丘陵が横たわっている。
村田牧場のある池多地区は、富山市の西南端に位置し、南は婦中町と北西部は小杉町に接し呉羽丘陵の西南
端につながっており、平野部で海抜27m、東南部の山で143mの高さであり、面積は約10Ku、耕地面
積159haのうち水田121haと稲作に特化している。
2 地域の主産業
池多地域の農家戸数は160戸うち専業農家数は11戸、主要作物の第1位は水稲であり、次に秋冬大根、
サツマイモ、スイカ、千石豆等の野菜とリンゴなどの果樹栽培が行われている。また、畜産農家は1戸で肉用
牛肥育経営を営み、水田面積の約8.3%にあたる10haの飼料作物を栽培している。
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2.経営管理技術や特色ある取り組み
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(1)経営実績とそれを支える経営管理技術、特色ある取り組み内容とその成果等
・施設整備による経営規模の拡大及び労力軽減による経営の安定
・転作田を活用した飼料作物栽培により、粗飼料自給率100%によるコストの低減
・稲ワラ回収跡への堆肥の還元による地力増強と、必要稲ワラの100%自給
・乳雄一貫肥育から乳用交雑種(F1)の一貫肥育経営による収益性の向上
・カウハッチの導入による疾病の発生防止と育成率の向上
・耕種農家との連携による地域に融和した畜産経営
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(2)(1)の活動に取り組んだ動機、背景、経過やその取り組みを支えた外部からの支援等
・
昭和40年に乳雄素牛10頭で肉用牛肥育経営を開始、49年に40頭、55年に畜産振興事業団
の助成事業により、肥育牛舎を新設し200頭規模に拡大、更に平成6年に自動給餌機を導入し、
労力を軽減し経営の安定を図った。
・
昭和51年から転作田に飼料作物を栽培し、経営規模拡大とともに飼料作物栽培面積も拡大し、
経営コストの低減に努めた。また、経営規模拡大に伴い自家産稲ワラだけでは不足するので、
堆肥との交換条件でコンバイン稲ワラを回収し、必要稲ワラの確保に努めている。
・
乳用種の素牛導入で経営開始したが、その後、収益性を高めるため、交雑種のヌレ仔導入による
一貫肥育牛経営を開始した。また、平成2年から収益性の高いF1肥育に転換した。
・哺育時の下痢・肺炎等の疾病防止と労力の軽減を図った。
・
米の生産調整が年々強化され水田の不作地が増える中、池多地域の転作面積の約4分の1、
作物作付面積の45%に飼料作物を栽培、また、稲ワラとの交換による堆肥の散布で地力の維持増強
に務める等、地域循環型農業の推進に貢献。
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3.経営・生産の内容
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(1)労働力の構成
区 分
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続 柄
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年齢
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農業従事日数
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年 間
総労働時間
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備 考
(作業分担等)
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うち畜産部門
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本 人
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60才
|
250日
|
85%
|
630
|
・経営全体の統括
・牧草の栽培管理
・敷料の搬入
・食肉の販売
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妻
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56
|
270日
|
100%
|
1,600
|
・肉用牛の飼養管理
・畜舎及び周辺の美化活動
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家 族
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長 男
|
33
|
310日
|
100%
|
1,860
|
・肉用牛の飼養管理
・経理・作業日誌等の記帳
・家畜糞尿の堆肥化処理
・畜産物の加工・販売
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常 雇
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臨時雇
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のべ人日 人
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労働力
合 計
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3 人
|
792日
|
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|
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(2)収入等の状況
区 分
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種 類
品目名
|
作付面積
飼養頭数
|
販売量
|
販売額・
|
収 入
構成比
|
農業生産部門収入
|
畜 産
|
肉用肥育牛
|
247.6頭
|
98頭
|
50,643,015円
|
77.3%
|
堆 肥
|
1,400t
|
350t
|
961,000円
|
1.5%
|
|
|
|
円
|
%
|
小 計
|
|
|
51,604,015円
|
78.8%
|
耕種
|
稲 作
|
5.5ha
|
|
7,120,000円
|
10.8%
|
|
|
|
円
|
%
|
林産
|
|
|
|
円
|
%
|
|
|
|
円
|
%
|
加工・販売
部門収入
|
精 肉
|
|
|
4,800,000円
|
7.3%
|
食肉加工品
|
|
|
2,000,000円
|
3.1%
|
|
|
|
円
|
%
|
小 計
|
|
|
6,800,000円
|
10.4%
|
農 外
収 入
|
|
|
|
円
|
%
|
|
|
|
円
|
%
|
合 計
|
|
|
|
65,524,015円
|
100%
|
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(3)土地所有と利用状況
区 分
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実 面 積
|
備 考
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うち借地
|
うち畜産利用地面積
|
個
別
利
用
地
|
耕地
|
田
|
1,550a
|
1,250a
|
1,000a
|
|
畑
|
150a
|
80a
|
150a
|
|
樹園地
|
a
|
a
|
a
|
|
計
|
1,700a
|
1,330a
|
1,150a
|
|
耕地以外
|
牧草地
|
a
|
a
|
a
|
|
野草地
|
a
|
a
|
a
|
|
稲ワラ回収
|
2,000a
|
1,450a
|
2,000a
|
|
計
|
a
|
a
|
a
|
|
畜舎・運動場
|
31a
|
a
|
a
|
|
その他
|
山 林
|
a
|
a
|
a
|
|
原 野
|
a
|
a
|
a
|
|
計
|
a
|
a
|
a
|
|
共同利用地
|
a
|
a
|
a
|
利用戸数:
|
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(4)家畜の飼養状況
単位:頭
品種・区分
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肉用肥育牛
|
肉用種
|
交雑種
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計
|
期 首
|
57
|
165
|
222
|
期 末
|
49
|
214
|
263
|
平 均
|
54.5
|
193.1
|
247.6
|
年 間 出 荷
頭(羽)数
|
8
|
90
|
98
|
|
(5)施設等の所有・利用状況
減価償却対象分
種 類
|
棟 数
面積数量
台 数
|
取 得
|
備 考
(利用状況等)
|
年
|
金額(円)
|
畜
舎
|
肥育舎
育成舎
|
1,218
630
|
S55.4
S60.4
|
71,000,000
36,000,000
|
|
施
設
|
堆肥舎
スチールサイロ
|
250
1
|
S60.5
S61.8
|
16,000,000
25,000,000
|
|
機
械
|
ショベル55
ダンプトラック
ロールベーラ
自動給餌器
ロールカッター
トライムモアー
反転機
トラクター110
ショベルローダ
トラクター
ジャイロペッター
マニアスプレッター
ロールベーラ
デスクモア
|
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
|
H4.3
H4.8
H6.8
H6.7
H6.8
H15.5
H15.7
H15.3
H10.6
H15.5
H15.5
H15.5
H15.6
H15.5
|
5,500,000
3,900,000
3,200,000
4,500,000
2,200,000
1,260,000
902,600
7,500,000
4,800,000
996,765
630,000
1,824,900
3,120,000
740,000
|
|
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(6)自給飼料の生産と利用状況
使用
区分
|
飼料の
作付体系
|
地目
|
面 積(a)
|
所有
区分
|
総収量
(t)
|
10a当たり
年間収量
(t)
|
主 な
利用形態
(採草の場合)
|
実面積
|
のべ
面積
|
採草
採草
|
イタリアンライグラス
混播
(イタリアンライグラス+リードカナリーグ
ラス)
稲ワラ回収
|
田
田
畑
田
|
770a
230a
150a
2,000a
|
1,540a
690a
450a
2,000a
|
借地
自己
借地
自己
借地
|
231t
126t
90t
60t
|
3.0t
5.5t
6.0t
0.3t
|
1番草:乾草
ラップサイレージ
2番草:乾草
ラップサイレージ
1番草:乾草
ラップサイレージ
2番草:乾草
ラップサイレージ
3番草:乾草
ラップサイレージ
|
計
|
|
|
3,150a
|
4,680a
|
|
507t
|
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4.経営・活動の推移
|
年 次
|
作目構成
|
頭(羽)数
|
経営および活動の推移
|
昭和40年
昭和40年
昭和51年
昭和55年
昭和60年
平成 2年
平成 6年
平成13年
平成14年
平成15年
|
肉用肥育牛
肉用肥育牛
肉用肥育牛
|
10頭
40頭
200頭
200頭
畜産物の加工部門開始
|
・ 素牛10頭を導入し,肉用肥育牛部門に水稲、野菜の複合
経営を開始
・
素牛導入から乳用雄牛のヌレ仔導入による乳用種の一貫
肥育経営に転換し、40頭規模に拡大
・
転作田を利用し、飼料作物栽培を開始
・ 経営規模拡大を図るため、畜産振興事業団事業で肥育牛
舎を新設
・ カウハッチを導入し、疾病の発生及び事故防止を図ると
ともに労力を軽減した
・
乳用種一貫肥育経営から収益性の高い交雑種のヌレ仔導
入による交雑種の一貫肥育経営に転換
・ 労力を軽減するため自動給餌機を設置し, 飼養管理の充
実を図った
・
長男 県を退職し、後継者認定を受け就農する
・ 長男が県畜産試験場勤務時に、食肉の分析研修を受講し
た際に、畜産物の処理加工に興味を覚え、将来、畜産物
の生産から販売までの一貫経営の夢を抱き就農した
・
夢を実現するため、農閑期の1月〜3月に食肉加工研修
・ 良質堆肥の供給をめざし堆肥舎を新築
・ 牛肉の加工部門開始
・ 袋詰堆肥を販売するため、堆肥舎に隣接して施設を整備
|
|
|
5.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策
|
(1)家畜排せつ物の処理方法
敷料としておおよそ同量のオガクズとモミ殻を牛床前面に敷込み、汚染具合を見なが
ら約2週間間隔で牛舎に併設されている第1次発酵層に搬出し、約2週間堆積したもの
を堆肥舎に移動する。
・ 堆肥舎では10〜14日間隔で切返しを行い、約4カ月間堆積発酵させ、堆肥の品質向上に
努めている。
・ 平成14年に公社営畜産基地整備事業で、より良質堆肥生産のための堆肥舎の増築を図
った。
・ また、家庭菜園等少量需要者向け及び付加価値を付けた販売戦略として、平成15年更
に堆肥の袋詰め施設を整備した。
・ 堆肥は、飼料栽培や稲ワラ交換の自家利用で980t、野菜・果樹及び水稲など販売
無償譲渡で420tすべてを土地還元している。
・ 堆肥の切返しは周辺住民に気を使い、雨の日・無風状態または風向きを考慮し、切返
し時に発生する悪臭の飛散に注意をはらっている。
|
(2)家畜排せつ物の利活用
内 容
|
割合(%)
|
品質等(堆肥化に要する期間等)
|
販 売
|
25
|
・
敷料としてオガクズとモミ殻を使用し、牛房から搬出後第1処理
場で堆積後堆肥舎へ搬出
・
良質堆肥を生産するため、10〜14日毎に切返しを実施し、約4カ
月間堆積後、袋詰めやほ場に搬出
|
交 換
|
20
|
無償譲渡
|
5
|
自家利用
|
50
|
そ の 他
|
0
|
|
(3)処理・利用のフロー図
畜 舎
|
第1次処理室
|
|
堆肥舎(約4ヶ月)
|
袋詰施設
|
水田 100t
販売 野菜 150t
果樹 100t
稲ワラ交換 280t
無償譲渡 70t
(近隣農家)
飼料作物 590t
自家利用
水田 110t
|
|
(4)評価と課題
@ 処理・利活用に関する評価
肉用牛の省力飼養管理、畜舎の悪臭防止及びオガクズ吸着による糞尿の堆肥化処理まで、大型機械による一貫作業の出来る施設として理想的な体系が出来ている。
また、堆肥の利活用については1,400tのうち、近隣住民への無償譲渡を含め約55%を自家利用主体に行い、その他 約1/2は販売・稲わら交換に利用している。
最近では、更に安定的販売先を確保するため、袋詰め器械を整備する等、堆肥化処
理方式としてはほぼ完成した処理体系となっており、高い評価をしてもよい。
A 課 題
袋詰め機械等の整備は安定的な販売先を確保するためとはいえ,現在までの利用実績から見て過剰投資の感がある。
また、堆肥の切返し作業中に発生するアンモニアガス等の悪臭を防止するため、できるだけ雨天時に切返しを行うなどしているので、この解決のための新しい技術の導入を検討すべきである。
|
(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み
施設周辺は水田(人家までの距離は約300 〜 400m)であり、糞尿処理も理想的な処理を行っているので、特別な環境美化対策は講じていないが、施設と水田の境界の雑草刈りや施設内の清掃を定期的に実施している。
|
|
6.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み
|
平成13年に富山県を退職した長男が後継者として経営に参画し現在に至っている。
・
その間、肉用牛飼養管理については全面的に長男に任せ、本人は水稲栽培、稲ワラ回
収、飼料作物栽培及び近年試行している牛肉並びに畜産加工品の直販等を主力に活躍
している。
・
平成15年1月1日に家族経営協定を締結。
・
長男は肉用牛生産から食肉及び加工品販売の一貫経営をめざしたい気持ちがあるの
で、平成14年1月から3ヵ月間食肉処理加工施設で研修させ、同年末から試行、実
施している。
・
また、青年農業士会及び農協青年部に参加させ、視察研修等に積極的に参加し、他の
農業経営者との交流・親睦を通じて、広い視野に立った経営者になるよう指導してい
る。
|
|
7.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容
|
・
富山県肉用牛協会副会長として本県肉用牛組織のリーダーとして活躍するほか、生
産振興や各種イベントに積極的に参加し、消費者との対話を通し県産牛肉の販売促進
の安全性等PRに努めている。
・
富山市中核農業士協会役員・JAなのはな畜産部会長として富山市の畜産振興並び
に経営安定を図るため、農業者との仲間づくりに取り組んでいる。
・
地元の自治会長として地域住民の良き相談者として人望も厚い。
・
当該地域は都市近郊で二種兼業農家も多く、転作面積の増大にともなって農業に対
する意欲が年々薄らいでおり、転作面積の約2分の1しか耕作されていない。
この
うちの45%、約10haに飼料作物を栽培し、地域の転作を担っている。
・
地域の耕種農家と契約し、コンバイン稲ワラの回収率の向上に努めるとともに、回収
後には地力増強に必要な量の堆肥を還元している。
・
土づくりと草づくりを基本に転作田を活用し、良質粗飼料の安定確保と良質堆肥の
土地還元を行い、地域に密着した循環型農業を実践している。
・
富山県農業改良普及協力員の農村青少年指導農業士として、将来担い手となりうる
農業高校生・小中学校生の視察研修や小学生の体験学習等の受け入れ農家として積極
的に協力している。
・
自家産牛の販売に取り組み、現在は固定客も増えてきている。
|
|
8.今後の目指す方向性と課題
|
現在の肉用牛経営でも経営者並びに長男夫婦が経済的に豊かな生活を維持するのに必要な所得は充分に確保している。しかし、経営者は60歳と若く、働く意欲もある。
また、飼養管理の省力化が図られているため、労力的にも飼養規模の拡大か、他分野への事業展開が可能な状況にある。
このため、経営的にも安定し、堆肥の自家利用の拡大、飼料作物栽培並びに稲ワラ回収の大型機械の有効活用など総合的に考えて、作付面積10ha目標にした稲作栽培への本格参入の計画を進めている。
一方、酪農家の減少に伴う交雑種の子牛入手困難になる状況等を想定しながら、規模拡大の可能性、肉専用種へのシフト、更には牛肉の直販及び加工等ついて試行模索している。
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9.事例の特徴や活動を示す写真
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